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藍華

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連載『秘める恋四』

8月中に戻ってくるつもりが、9月になってしまいました(汗)
更新再開です。今回は、2人はほとんどでてきませんがあるまじめな方に悲劇が。
やっと半分ぐらいです。


四.

 

「副長、ではその平隊士に広がっていると思われるあるモノを入手せよとおっしゃるのですね」
「ああ、早急にだ。斎藤の奴に一度命じたんだがどうも失敗した・・・かもしれねぇ。念には念だ。お前にも、頼む。悪いな、他にも頼んでいる仕事があるっていうのによ」
「いえ、この屯所で何か起きているということであれば一大事です」
「頼む」
土方の信頼へ応えねばならない。山崎は、気を引き締めた。

 

こんなやり取りがあったのは、昨晩遅くのことだ。
この屯所で副長の目を盗んで何かが起きている。そんなことが本当にあり得るだろうか。
伊東派が新選組に加わって旧来の幹部たちが知り得ない情報というものがこの屯所内に存在するのは事実だ。彼らは、いずれ新選組にとって敵になるだろうことは土方をはじめ古参幹部全員の意見である。事実、伊東派はそのような動きを始めていると監察方でも情報を握っているた。しかし、今回はそれとは別件のようであった。なぜならば、土方も不可解だというような様子で山崎に調査を命じていたからだ。伊東派以外に・・・信じ難いが尊王派の間者が暗躍していないとも限らない。そうなると、相手はかなりの腕ききだろう。なにしろ、斎藤すら尻尾を掴めずにいるらしい。
慎重に事に当らねばならない。
だが、引っかかることがある。どうにも、今回の話はおかしい。
何故、雪村千鶴なのか。
彼女は、性別を偽っているとはいえ普通のか弱き女子だ。薩摩の間者ならば、風間との関係でということも考えられないことはないが、あの男がそのようなことを許すようには山崎には思えなかった。


(まず、雪村千鶴君だ)
彼女の身の回りで何かが起きていることは間違いがない。
土方の話によると、雪村千鶴と共にいるときに妙な視線を感じるという。しかも、その視線が興味津々というから謎であった。
考えうることとしては、雪村千鶴の秘密が平隊士たちにバレてしまった。もしくは、何かしらの原因で雪村千鶴が平隊士たちの間で興味を持たれている・・・。
そうなると、色々と面倒である。
(まずは、副長がおっしゃっていた平隊士に出回るあるブツを探し出すか・・・。何がでてくるか)
屯所を揺るがす大事件に発展しなければいいが。
と、そう思った山崎に罪はない。

 

 

翌日から山崎は内偵を開始した。まずは、雪村千鶴である。
彼女の一日はほとんど毎日同じである。
朝起きて、朝餉の準備を手伝い、屯所内を掃除し、許可がでれば巡察に同行する。
暇があれば幹部たちの洗濯物を洗い、幹部の茶を入れる。実に好ましい少女である。
ほぼ小姓のようなことを毎日しているだけでこれといったことはない。
(雪村君一人のときは何者かが彼女を観察している風でもないな)
そう思った矢先であった。

 

「あ、斎藤さん。こんにちは」
 「ああ・・・こんにちは。・・・と、隣に座ってもいいか?」


斎藤が雪村千鶴の元にやってきた。そういえば・・・山崎は思いだす。
最近、斎藤がおかしいのは監察方でもちょっとした話題になっていた。雪村千鶴と一緒にいるときの斎藤が挙動不審だというものだ。
まさかあの方に恋などという浮ついたものがやってくるとは思えなかった山崎だが、今の二人をみていささか不安になった。
(なぜそこまで動きがおかしいんですか!)
ただ、隣に座るだけでかなりぎこちない。心なしか、頬が赤い。
恋する青年そのものではないか。
だが、雪村千鶴が話しかけているのに斎藤は上の空だった。何かを真剣に考え込んでいるようである。
考えながら斎藤は、おもむろに雪村千鶴の手を握った。山崎は驚きのあまり凍りついた。
そんな馬鹿な、斎藤が壊れた。と、思った彼に罪はない。


 「さ、斎藤さん! あ、あのっ!!ええっ?!」


雪村千鶴が顔を真っ赤にして驚いている。
当然だろう、年頃の娘の手を握るなどもうそうとしか思われない。しかも、相手はあの斎藤一である。
 (ありえん!!)
呆然とした。
あの斎藤が雪村千鶴を。
そんな、まさか。
嫁にでもするといいだすのではないのか。
焦った山崎の背後からものすごい気配が迫って来て、その桃色な気配に山崎は驚いて振り返った。
何かぶわぁぁぁぁっと。危険なものが駆け抜けたような気がする。
着物の袖をまくりあげて腕を見ると鳥肌が立っている。
(な、なんなのだ)
辺りの気配を探ってみるが、すでにその妙なものはいなくなっていた。
その気配を更に探っていると、もっと下手な隠し方の人間を幾人か発見した。静
かに移動して山崎は彼らの背後に回った。
(平隊士だな)
数名の平隊士が斎藤と雪村千鶴をみて狂喜している。


「おい、これは第二十三話の」
「ああ、間違いない。二十三話だ。はじめての接吻の回だ」

 

(何の話だ?)
山崎は、斎藤の視線に気づいた平隊士たちがこそこそと逃げ出すのを目で追いかけながら、考え込む。
二十三話。どう考えても書物の話だ。そこで思い出すのが、土方が言っていた隊士たちの間に広まっているとかいう物だ。
書物なのか。
関係がないのかもしれないが。
(調べてみるか)
山崎は、去っていた隊士のあとを追いかけた。

 


 *******

 

「・・・・。・・・・!!」

あまりのことに、持つ手が震えた。
このようなものが存在していいのだろうか。しかし、これはこれで目を逸らしては負けなような気がする山崎は、思っていた以上に簡単に手に入ってしまったそれを見下ろして目を見開き凍りついていた。その目は血走っている。土方に報告する前に中を検めようと人目に触れぬ場所で開いたまではよかったが。
(これをこのまま副長にお出ししてこれを持っていた隊士は、明日の朝日を拝めるのか)
隊士が心配であるが、それ以前に。
複数の視線と土方は言っていた。と、いうことは既に多くの隊士の目にこれが広まっているということになる。
(桃色衛士とは何者だ)
文才はある。流れるような文章は読む人を引き付け、くっつきそうでくっつかないこのじれったさが読者の心を掴んで離さない。
相手は、相当の手練であるようだ。
(教養のない人物の手によるものではない・・・が!)


斎藤と土方。
よりによって、この新選組で数少ない良心が冒涜されている。
更に雪村千鶴。
かわいらしい女子がこのようなもので穢されている。
彼女は、この新選組においては聖域である。

 

 

土方に伝えぬ前に桃色衛士を探し出し始末するべきだろうか。
だがしかし。監察たるもの調査し報告したうえで指示を仰いだ方がいいだろう。
山崎は、再び手元にあるそれ・・・秘める恋・・・と、題された書物を見た。
「・・・まさかこれを既に知って・・・。いや、考えるな」
頭に浮かんだ言葉を振り払う様に山崎は頭を振った。
雑念は消し、任務に忠実であろうと山崎はそれを懐にしまって土方の自室へと向かった。

 

 

 



-----------------------

ばれました。
次回土方さんが受難です(笑)
山崎さんの口調がわからない・・・。

ここまでよんでくださってありがとうございました。


 

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