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藍華

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連載『秘める恋三』

斎千連載『秘める恋三』です。
この物語は斎藤さんが色々とアレです。
申しわけございません・・・。


三.


最近、斎藤が変だ。


土方は、千鶴が淹れた熱めの茶をずずっ。と、啜りながら渋い顔をした。
真面目な男だから、ある意味元々変だったがなんというか・・・どことなく思春期の少年が親に隠れてあれこれする。そんな感じに近かった。要するに、あれだ。罪ない感じであるが、まだまだ少女な千鶴あたりが知れば大層幻滅する感じの・・・。いや、まさかな。あの斎藤に限ってそっちだけはないだろう。土方は首を横に振った。新八ならいざ知らず、斎藤だ。それはありえないと思いつつも、しかしだなぁ。と、考えは最初に戻ってくる。
(別に隊務に影響がなきゃどうでもいいんだけどよ)
斎藤がそっちに目覚めようとなんだろうと。
むしろ彼はまだ若いのだから、いたって普通といえなくもない。ただ・・・あの斎藤が。と、いう一点に激しい抵抗を感じる。
(しかも引っかかる)
斎藤が変になったのは、土方が妙な視線を感じるようになった時期と合致するのが気になっている。それは千鶴を連れていると感じるもので、千鶴が傍にいないときはまったくないという代物であった。その視線に敵意はない。殺意もない。ただやけに興味津々というなものであった。
土方が一人のときには感じず、千鶴が一緒のときに感じる。千鶴が原因かと遠回しに千鶴に確認するも、収穫はなし。ならばと、斎藤に尋ねようとすれば斎藤はその話を避ける。
これは、何を意味しているのだろう。
土方は、腕組みをした。


「なぁ、土方さんよ。アンタの百面相見てるのはそれなりに面白いんだけどな、いつまで待てばいいんだ」


ハッ。と、して顔をあげると呆れ顔の原田が土方をみていた。
そうだった。困って原田を呼んだのだった。
「悪ぃ。うっかり考え事をしちまってた。・・・・左之。お前、最近なにか周辺で変わったことはねぇか。千鶴絡みで」
「千鶴絡みって・・・土方さん。何があった」
千鶴。と、いう言葉で原田の表情が変わった。相変わらず女には優しい男である。
土方は原田に最近あったことを話してやった。すると、みるみる原田の表情は険しくなる。
「んで、土方さん的にはどう思ってんだ」
「いや、まだ何も。ただ、わかってることはある。千鶴だ」
「だが、千鶴の周辺と言ってもなにか異常があれば俺が気づかずとも斎藤が気づくだろうよ。あいつが何も言わないってことは、何もねぇんじゃねぇのか?」
もっともである。だが、今はその斎藤がちょっとおかしい。
「ああ、あの斎藤が何も報告をあげねぇということは、何もないと思いたいんだがよ。なぁ・・・あいつ最近どことなく変じゃないか?」
「斎藤が?」
首を傾げる原田に土方は話してやった。
すると最後まで話を聞いていた原田が、頷いた。
「ああ、確かにな。あいつなぜだか知らんが最近異様に千鶴を気にしてやがる。いつもなら本人はそんなこと思っちゃいねぇんだろうが、千鶴に対してあいつはマメだ。だが、何か変に意識してるみえてぇで・・・」
見ていてほほえましいと俺は思っていたんだがな。と、原田は締めくくった。
「・・・と、なるとあいつの遅い春の相手は千鶴・・・」
「かもな。それと、話していて思いだしたんだけどよ。最近、一部の隊士がやけに土方さんと斎藤、そして千鶴を気にしてるみたいだぜ。まさか千鶴のことがバレたとか」
「・・・・そうか。そりゃぁ、調べねぇとな。左之、夜勤あけですまなかったな。すまないついでに山崎を呼んで来ちゃくれねぇか。そのあとゆっくり休んでくれ」
「わかった。土方さん、千鶴のことは」
「わかってる」
原田は頷くと部屋を出て行った。土方は山崎が来るまでの間、じっと考え込んでいた。
何が、この屯所で起きているのか。
早く把握しなければならない。

 

 

 

 

 


廊下の先に腰をおろして、ぼんやりと庭を眺めている姿を見つけた時。
斎藤は胸が高鳴るのを感じて動揺した。
(お、落ち着け。あれは書物だ。桃色衛士の頭から生まれた妄想に過ぎん。別に俺が雪村をす、好いているわけでも・・・たぶん、雪村が俺を好いているわけでもない)
ここ数日。彼はまったく彼らしくなかった。衝撃の出会いから数日、斎藤は雪村千鶴とどう接したらいいか困惑していたのである。
ただのくだらない読み物として捨て置いておけばこんなことにはならなかった。
それを熟読し、“あること”をしてしまった今となってはどうにもこうにもいけなかった。
あの物語の雪村は、何しろ自分を好いているのだ。
これが落ち着いていられるだろうか。
確かに、今は男の格好をし男性として千鶴は扱われている。だが彼女は紛れもなく女性で、しかも斎藤には珍しく傍にいて嫌どころか心地よいとさえ思える女子なのである。
しかも、雪村千鶴は少年ということになっていてもなお周囲には美少年と呼ばれるほどかわいい。あのいかにも美しいものやかわいらしいものに敏感そうな伊東からみても千鶴は合格点以上の美少年だったことは記憶に新しい。あの伊東が千鶴を見た時、まぁ。と、奇声をあげて抱きつこうとしたのだから間違いない。あのときは土方の迅速な千鶴奪取のおかげで難を逃れたほどだ。たぶんあれが始まりなのだろう。伊東が美青年土方と美少年千鶴の恋物語を妄想し始めたのは。
さらに、千鶴は性格もいい。細やかな気遣いをする優しい娘である。近藤が自慢の娘とばかりにかわいがるのもわかる。
千鶴はいつも、自分のことを後回しにしながら。斎藤のあとをついてくる。それが小動物のようで非常にかわいいと思っているのは以前からのことである。
その千鶴が、物語の中とは言え自分に好意を。
これが動揺せずにいられるだろうか。
いられるわけがない。
それが周囲に不審がられていることも承知で、どうしようもないのだ。
「あ、斎藤さん。こんにちは」
「ああ・・・こんにちは。・・・と、隣に座ってもいいか?」
斎藤に気がついた千鶴がにっこりと笑って挨拶をしてきたので、つい斎藤はそんなことを言ってしまう。千鶴は嫌な顔をすることなく、頷いてくれ斎藤はぎこちない動作で千鶴の隣に腰を下ろした。
(これは、秘める恋。第23話。縁側での冒頭そっくりではないか・・・!)
あの場面。何度も読み返したあれは、確か。


確か。
「斎藤さん?」
斎藤には千鶴の呼びかけは聴こえていなかった。
(はじめての・・・)
斎藤はその場面を思いだすことに必死になっていた。熟読しある作業をしたのだからよく覚えている。思いだしながら、斎藤は本当に無意識で千鶴の柔らかい小さな手を握りしめていた。
本人の中ではその場面を思いだしていたのだから異和感は全くない。
「さ、斎藤さん! あ、あのっ!!ええっ?!」
(はじめての!!)
真っ赤になった千鶴に気づくこともなく斎藤は考え続けていた。あれは予言だったのか。
まさか予言・・・。

 


必死に考え込む斎藤と、手を握られて恥ずかしいやら困惑やらで混乱している千鶴。この二人の姿を物陰からじっと見つめている男がいた。
「あらあら。面白くなってきてよ!」
るん。と、変な声を出して伊東はその場から離れて行った。急ぐ先は自室である。
スパーンと、襖をあける。そして、飛びこむように文机に向かった。

 


続く

 

 

 

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斎藤さんが色々と変になっていて申し訳ございません。
大好きなんだよ、斎藤さん。信じていただけたら嬉しいです。

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